あの時の自分に、今なら何を言うだろう。
何度も考えたことがあります。
「やめておけ」
「その話はおかしい」
「もう戻れなくなる」
きっと、そう言うと思います。
でも――
本当にあの時の自分が、
その言葉を聞き入れただろうか。
今振り返ると、正直、自信はありません。
最初にお金を振り込んでから、
詐欺だと気づくまで――
振り返れば、ほんのひと月ほどの出来事でした。
しかし、その頃の自分は、
すでに冷静さを失っていました。
「信じたい」という気持ちが、
現実を見る目を少しずつ曇らせていった。
そして正直に言えば、
欲に目がくらんでいたのだと思います。
偽の証券口座には、
利益が増えていく数字が表示されていました。
その数字を見ながら、
私は現実よりも、
「期待」の方を信じてしまっていたのです。
違和感は、確かにありました。
税金の支払いや、
訳の分からない振込手続きに関するメール。
しかも、そのメールには
差出人の企業情報すらありませんでした。
今思えば、
おかしいことだらけです。
それでも――
「ここまで来たのだから」
「今やめたら、すべて無駄になる」
そんな思いが、自分を止まれなくしていました。
そして、何より――
「自分だけは大丈夫」
どこかで、そう思っていたのだと思います。
今なら分かります。
詐欺というのは、
特別な人だけが騙されるものではありません。
孤独や不安、焦り、期待。
そうした気持ちの隙間に、
静かに入り込んできます。
だからこそ、
あの時の自分に言いたい。
「違和感を無視するな」と。
うまい話ほど、立ち止まること。
一人で判断しないこと。
そして――
誰かに話すこと。
もしあの時、
もっと早く家族に相談していたら。
もし途中で、
誰かに止めてもらえていたら。
そう思うことは、今でもあります。
もちろん、過去は変えられません。
失ったものも戻りません。
それでも。
あの経験を無駄にしないために、
こうして書き残しています。
同じように苦しむ人が、
少しでも減ってほしい。
今は、そう願っています。

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