被害届という現実ーそして、その後
4回目、私は再び警察署を訪れました。
担当の警察官から、こう言われました。
「被害届がまとまりました」
目の前に出された書類は、
思っていた以上のページ数でした。
これまで提出してきた資料、
LINEのやり取り、振込記録――
すべてが、ひとつの「被害」として整理されていました。
その時、私は少しだけ思いました。
「ここまでやったのだから、何か動くのではないか」
しかし、その後に続いた言葉は、
想像していたものとは違いました。
「これで一区切りになります」
「お金は戻らないかもしれません」
さらに、こうも言われました。
「ネットを使った海外の犯罪は、捜査が非常に困難です」
「犯罪者が使うIT技術に、現場が追いついていない部分もあります」
正直、言葉を失いました。
被害届を出せば、
警察が動いてくれる。
犯人を追ってくれる。
どこかで、そう思っていました。
でも現実は違いました。
被害届を出しても、
必ず捜査されるとは限らない。
それは警察側の判断によるものだと、
この時、強く感じました。
それでも――
他に方法は思いつきませんでした。
任せるしかなかったのです。
その後、私は自分なりに、
お金を取り戻す方法がないか調べました。
その中で知ったのが、
預金保険機構 のサイトに、
「振り込め詐欺救済法」に基づく公告が掲載されているということでした。
凍結された口座の情報が公開されており、
自分が振り込んだ口座が対象になっているか確認できます。
もし対象となっていれば、
口座に残っている残高が、被害者に分配される仕組みです。
「もしかしたら、少しでも戻ってくるかもしれない」
そんな期待を持ちました。
実際に確認してみると、
私は16口座に振り込んでいました。
そのうち、残高が残っていたのは5口座。
しかし――
その金額は、ほんのわずかなものでした。
例えば、ある口座では残高がわずか2,000円。
そのわずかな残高を、
複数の被害者で分配する仕組みです。
当然、実際に戻ってくる金額は、
さらに少ないものになります。
正直に言ってしまえば――
「救済」という言葉から想像していたものとは、
大きくかけ離れていると感じました。
制度としては存在している。
しかし、現実に取り戻せるお金はごくわずか。
それが、私が実際に経験した事実です。
それでも――
他に方法は思いつきませんでした。
任せるしかなかったのです。
その時、もう一つ、印象に残っているやり取りがあります。
警察官から、こう聞かれました。
「この事件を公表してもよろしいですか」
公表することで、
同じような被害を防ぐ注意喚起につながる、とのことでした。
私は、少し考えてから答えました。
「公表はしないでください」
理由はひとつです。
同じ地域に住む家族に、
余計な心配をかけたくなかったからです。
子供には、詐欺被害にあったことだけは伝えていました。
もし詳細が公表されれば、
それが自分のことだと分かってしまう。
そう思いました。
結果として、
このときは公表を控えてもらうことにしました。
警察から、1枚の紙を渡されました。
「連絡メモ」と書かれたものです。
・届出日時:令和5年7月24日 17時00分
・犯罪事件受理番号:令和5年395号
・○○警察署 刑事課
そして、備考欄にはこう書かれていました。
「※このメモは被害届の受理証明ではありません」
この一文が、妙に印象に残っています。
それから――
警察からの連絡は、一度もありません。
一度だけ、こちらから連絡をしました。
しかし、状況については
「確認できない」とのことでした。
それ以降、
警察との関わりは一切ありません。
今振り返ると、
ここで一つの区切りだったのだと思います。
「現実を受け入れなければならない段階」
そしてこのあと、
私は別の形で、さらに追い詰められていきます。
次回、第10話「眠れない夜」
被害のあと、本当に苦しかったのは“その後”でした。
第9話(後編)おわり
第10話に続く

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