引き返せなくなった追加投資
追加の資金を入れる手続きは、
これまでと同じだった。
LINEで送られてくる指示に従い、
振込を行う。
それだけだった。
今回、振り込みについては、
証券会社の「担当者」とされる人物から、
LINEで直接指示が来た。
送られてきたのは、
日本の銀行口座だった。
しかも、
法人名ではなく「個人名」の口座。
口座番号と名義が、そのまま記載されていた。
「即日での振り込みをお願いします」
とも書かれていた。
その時、
一瞬だけ、違和感がよぎった。
「証券会社なのに、個人口座なのか?」
だが、
それ以上深く考えることはなかった。
これまでの流れが、
その違和感を押し流していた。
振り込みを終えたあと、
私はふと、あることを思った。
「本当に出金できるのだろうか」
試しに、
数十万円の出金を依頼してみた。
すると、
こう返ってきた。
「高額の出金は手続きに時間がかかります」
「少額であれば即日対応できます」
そこで、
数万円の出金を依頼した。
すると、
本当にその日のうちに、
指定した口座へ入金があった。
その瞬間、
私の中の疑いは、ほとんど消えた。
「ちゃんと出金できる」
この事実が、
すべてを正当化してしまった。
今振り返れば、
あれは「信用させるための演出」だったのだと思う。
入金が確認されると、
すぐに取引が始まった。
叔父からの指示。
それに従って操作を進める。
結果は、
これまでと同じだった。
利益が出た。
画面に表示される数字は、
確実に増えていた。
その事実が、
すべての疑いを消していく。
その頃、彼女自身も投資をしていた。
「今日は2万ドルのプラスでした」
そんなメッセージが、何気なく送られてくる。
正直、驚いた。
同時に、
「すごいな」と思った。
そして彼女は、こう続ける。
「あなたは今日はどうでしたか?」
私は、自分の結果を伝える。
すると、
「いいですね」
「順調ですね」
と返ってくる。
そのやり取りが、
いつの間にか日常になっていた。
今振り返れば、
あれは完全に“煽られていた”のだと思う。
比較されることで、
もっと利益を出したいと思う。
遅れたくないと思う。
気づかないうちに、
私は競争の中に引き込まれていた。
この時すでに、
私は「投資」ではなく、
「競争」をしていたのかもしれない。
「やっぱり大丈夫だ」
そう思った。
いや、
そう思いたかったのかもしれない。
彼女からも連絡が来る。
「良かったですね」
「これで安心ですね」
その言葉を見て、
私は完全に信じていた。
だが、
この時すでに、
状況は次の段階へ進んでいた。
一度資金を増やしたことで、
ハードルは大きく下がっていた。
「もう一度くらいなら」
そんな気持ちが、
自然に生まれてくる。
人は、
一度成功体験を得ると、
その流れを繰り返そうとする。
それが、
冷静な判断を鈍らせる。
そして、
そのタイミングを狙うように、
さらなる提案が来る。
「次はもっと大きく狙えます」
この言葉が、
決定的な一歩へとつながっていく。
この時の私はまだ、
自分がどこに向かっているのか、
まったく分かっていなかった。
だが確実に、
引き返せない流れの中に入っていた。
第5話(後編)おわり
第6話へ続く









